
最悪だ…、土砂降りなんて…。
私は、雨宿り出来そうな場所を探してバイクを走らせたが、 こんな山道じゃ期待できそうになかった。
あきらめかけた頃、道路わきに小さな屋根の建物が見えた。屋根付のバス停の様だ、あそこで雨宿りをしよう。
バス停の横にはバイクが1台、先客だろうか。
私は、バイクを停めて屋根の下に入った。
「こんにちは、雨宿りですか?」
先客の男性が声をかけてきた。 大学生ぐらいだろうか、まだあどけなさが残った顔つきだ。
「えぇ、さすがにこの雨じゃ危ないですから…」
私は、濡れたウェアの水を払いながら答えた。
今日はあまり人と話す気分ではないんだが。
「ツーリング帰りですか?僕はこの先の渓谷まで行って来ました。 今日はバイクがいっぱいで~」
男性は、ツーリング先の出来事を話し出した。
私は軽く相槌を打ちながら、話半分で聞いていた。
「で、あなたはどちらへ?」
どちらへ…、私はどこからの帰りなんだろう。
先週までは私の住んでいたところ。今では、ただの他人の部屋。
同棲していた彼氏にフラれて、今日は合鍵を返しに行った帰り道だった。
何も、そんな最悪の帰り道に土砂降りの雨に遭わなくても。
「大丈夫ですか?」 声をかけられて気がついた、自分が泣いていることに。
あれだけ泣いたのに、まだ涙が流せたんだ。
「何かあったのなら話を聞きますよ。雨、まだ止みそうにないですし。」
人と話す気分ではなかったが、誰かに聞いて欲しかったんだろう。
堰を切ったかのように、私は一気に話した。
彼との出会い、初めて乗ったバイクの後ろ、彼と初めて行ったツーリング。
先週の出来事、自分の未来が消えたこと…。
「雨、止みましたね。」
どのくらい時間が経ったのだろうか、雨はいつの間にか止んでいた。男性は空を見上げながら言った。
「バイクっていいですよね。僕も昔は、高速で最高速にチャレンジしたり、バイク仲間で蕎麦を食べに 行ったりしま
した。
バイクがあったから、楽しい思い出が沢山作れたと思います。 彼氏さんとの別れは辛かったでしょうが、彼のおかげ
でバイクに出会えた。
だから、僕達もここで会うことが出来た。 出会いがあるから別れがあって、別れがあるから出会いがあるんだと思い
ます。 あなたには、きっといい出会いが待ってるんですよ。」
男性は、グローブの水気を払いながら言った。
「また、あなたと会えますか?」
私の口から、自然とその言葉が出ていた。 恥ずかしくて、思わず下を向いてしまった。
「あなたがバイクに乗り続けていれば、また会えますよ。」 男性はそう言うと、ヘルメットをかぶってアゴ紐を締め
た。
バイクに向かって歩き出す彼。 何か言わなきゃ…、でも何を言えば…。
私は夢中で声をかけた。
「あ…、あの…、そのバイク、何て言うバイクなんですか?」
男性はとびっきりの笑顔で答えてくれた。
「マグナ50です」
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